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「バランス」と転倒について

I.L. Neuro Studio臨床実践コラム「「バランス」と転倒について」のアイキャッチ画像。重心計に乗る人物と、その周囲を取り囲む「安定性限界(円錐モデル)」のアイソメトリックイラスト。オレンジ色の矢印が重心(COM)の移動と支持基底面との関係を示し、姿勢制御のメカニズムを医学的かつ視覚的に解説している。

💡この記事の要約:姿勢制御

姿勢制御とは、重力や環境に対して身体の方向を維持する「姿勢の方向付け」と、転倒せずに重心を安定させる「姿勢の平衡」という2つの機能を統合した複雑な運動技能です。かつては単なる反射と考えられていましたが、現在は視覚・前庭覚・体性感覚の統合や、認知処理、運動戦略など、6つのサブシステムが相互作用して成立すると理解されています。リハビリではこれらを個別に評価し、どの機能が低下しているかを特定することが重要です。

姿勢制御に関する従来の「反射説」と現代の「システム理論」の違い

これまでの歴史の中で、「バランス」は体性感覚のトリガーに基づいて引き起こされる一連の反射であることや、中枢神経系のいくつかのバランスセンターがコントロールを担っていると考えられてきました。

しかし、この単純なバランスシステムの見方は限定的で、転倒のリスクを評価・改善し、転倒を減らす能力が限られていることが知られています。

姿勢制御は、複数の感覚運動プロセスの相互作用から得られる複雑な運動技能です。

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姿勢をコントロールするために必要な2つの機能とは?

①姿勢の方向づけ

体性感覚、前庭、視覚システムから収束する感覚情報の解釈に基づきます。

②姿勢の平衡

自分で行う動作の開始や、外部からの刺激による運動に対し、体の質量中心(COM)を安定させるための感覚運動戦略の調整です。

姿勢のサブシステム

姿勢システムは多くのサブコンポーネントで構成されており、姿勢制御を理解するためには、人が動作を行うときに環境と相互作用する能力の根底にある多くの生理学的システムを知ることが重要になります。

姿勢制御に必要な6つのサブシステム(Horakによるシステムモデル)

図は姿勢制御に重要な6つの要因の概要です。

これらの1つまたは組み合わせに障害があると姿勢が不安定になります。

中央のグラフは加齢に伴うバランス障害や転倒リスクの増加を示していますが、この増加は「バランスシステム」の老化ではなく、バランスをとるために必要な要因の障害の増加によるものです。

①生体力学的制約

バランスに対する最も重要な生体力学的制約は、支持面である足の大きさと質です。

大きさ、強さ、可動域、痛みなどいかなる制限もバランスに影響します。

立位における支持基底面と安定性限界(円錐モデル)の模式図

またバランス制御に対する最も重要な生体力学的制約の1つは、支持面に対する体の重心を制御することです。

図に示すように、立位では安定性の限界(支持面を動かずに重心を動かしてバランスを維持できる領域)は逆円錐形になります。

よって平衡は支持面の大きさと、可動域、筋力、限界を検出する感覚情報の制限によって決まる空間となり、中枢神経系は、この安定円錐の内部表現を持っています。

そのため中枢神経系が体の安定限界の正確な中枢表現をもつことは重要です。

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②運動戦略

立位でバランスをとるためには3つの主な運動戦略があります。

A 足関節戦略:硬い表面に立っているときのわずかな揺れ

B 股関節戦略狭い支持面や不安定な支持面、重心を素早く動かす必要があるとき

C ステップ戦略:足を特定の位置に維持することが重要でない場合

姿勢制御の運動戦略(足関節戦略・股関節戦略・ステッピング戦略)のイラスト

これらの戦略は、外部摂動に反応して100msで引き起こされますが、個人の意図、経験、予測に基づいて戦略が選択され、反応の大きさに影響を与えることができます。

③感覚戦略

しっかりとした支持面が明るい環境では体性感覚(70%)、視覚(10%)、前庭(20%)の割合で感覚情報を得ています。

しかし感覚環境が変化するにつれて、各感覚への相対的な依存度を再調整する必要があります。

④空間での方向づけ

重力、支持面、視覚的周囲、内部基準に対して身体部位を方向づける能力で、健康な神経系は、状況やタスクに応じて、空間内で身体がどのように方向づけられるかを自動的に変更します。

⑤動的制御

歩行中や姿勢変換など動的な場面では、静止時とは異なり、重心が足の支持面内にありません。

歩行中の前方姿勢の安定性は、降り出した足を落下する重心の下に置くことで得られます。

また横方向の安定性は、体幹の横方向の制御と足の支持面の配置の組み合わせで得られます。

⑥認知処理

姿勢制御には多くの認知資源が必要で、姿勢課題が困難であればあるほど、より多くの認知処理が必要になります。

よって姿勢課題の困難さが増すにつれて、認知課題における反応時間とパフォーマンスが低下します。

神経障害により認知処理が制限されていると、利用可能な認知処理の多くを姿勢制御に使う場合があり、二次的な認知課題に取り組んでいるときに姿勢を制御するための認知処理が不十分になると、転倒に繋がる場合があります。

姿勢制御と転倒は状況に依存

各個人には、姿勢を制御するために利用できるシステム制約と資源の独自のセットがあるため、平衡と姿勢の方向を維持する能力は特定の状況に依存します。

転倒のリスクを予測し、バランス障害のある人に適切な介入を設計するには、基礎となる生理学的システムの完全性と理解可能な代償戦略を評価することが重要です。

加齢や障害に伴う姿勢制御能力の変化を示す概念図

FAQ(よくある質問)

「姿勢の方向付け」と「姿勢の平衡」の違いは何ですか?

「姿勢の方向付け(Orientation)」は、重力や周囲の空間に対して頭や体を適切な位置関係に保つ機能です。一方、「姿勢の平衡(Equilibrium)」は、動いた際に重心を支持基底面内に留め、転倒を防ぐ機能(いわゆるバランス)を指します。

認知機能の低下はバランス能力に影響しますか?

はい、大きく影響します。姿勢制御には注意機能などの認知リソースが必要です。特に、歩きながら計算するなど「二重課題(デュアルタスク)」の状況では、認知機能が低下していると姿勢制御へのリソースが不足し、転倒リスクが高まります。

感覚機能(視覚・前庭覚・体性感覚)の役割分担はどうなっていますか?

安定した平地では体性感覚(約70%)に大きく依存し、次いで前庭覚(20%)、視覚(10%)を利用します。しかし、暗闇や足場が悪い場所など環境が変化すると、脳は瞬時に依存する感覚の比率(重み付け)を切り替えて適応します。

高齢者の転倒リスクを評価する際に見るべきポイントは?

単に「筋力」や「バランス」と一括りにせず、6つのサブシステム(生体力学的制約、安定性限界、予期的姿勢制御、感覚統合、動的バランス、認知処理)のうち、どこに問題があるかを分析することが重要です。

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執筆者情報

三原拓(みはら たく)
ニューロスタジオ千葉 理学療法士


主な研究業績
2016,18年 活動分析研究大会 口述発表 応用歩行セクション座長
2019年    論文発表 ボバースジャーナル42巻第2号 『床からの立ち上がり動作の効率性向上に向けた臨床推論』 
2022年.   書籍分担執筆 症例動画から学ぶ臨床歩行分析~観察に基づく正常と異常の評価法
p.148〜p.155 株式会社ヒューマン・プレス

その他経歴
2016年  ボバース上級講習会 修了
2024年 自費リハビリ施設 脳卒中リハビリパートナーズhaRe;Az施設長に就任
2025年 株式会社i.L入職 NEUROスタジオ千葉の立ち上げ

現在の活動
ニューロスタジオ千葉 施設長
脳卒中患者様への専門的リハビリ提供
療法士向け教育・指導活動
千葉ハンドリングセミナー共同代表

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参考文献

  • Postural orientation and equilibrium: what do we need to know about neural control of balance to prevent falls?(姿勢の方向付けと平衡:転倒予防のためにバランスの神経制御について何を知る必要があるか?)
    Fay B. Horak (2006)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16926210/
  • Motor Control: Translating Research into Clinical Practice(モーターコントロール:研究から臨床実践へ)
    Anne Shumway-Cook, Marjorie H. Woollacott (2016)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20120152/